国旗損壊罪法成立、権力の暴走を食い止めねば 社説
国旗損壊罪法成立 権力の暴走を食い止めねば

憲法違反が指摘される日本国旗損壊罪法が、数の力で成立してしまった。権力の暴走が一層あらわとなった。

法律の制定は立法府に裁量があるとはいえ、三権分立の下、違憲審査権を持つ最高裁が違憲判決を下してもおかしくない法律だ。常軌を逸した政府与党の国会運営をただし、理性的な議論を取り戻さなければならない。

曖昧な基準と罪刑法定主義違反

国旗損壊罪法は、国旗を「著しく不快、嫌悪の情を催させる方法」で公然と損壊、除去、汚損した場合、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金を科す内容だ。

「不快」や「嫌悪」という個人の主観が基準であり、何が処罰対象となるか曖昧だ。取り締まる側の解釈で処罰範囲が広がる恐れがある。犯罪と刑罰を法律で明確に定める「罪刑法定主義」の原則に反している。

自民は、法律が守ろうとする「保護法益」を「国旗を大切に思う国民感情」だと主張する。これも刑罰を設けるだけの厳格さに欠けている。

多様な国民感情と表現の自由の萎縮

何より国旗に対する国民感情は一律ではない。大切に思う気持ちもあれば、国旗や政治への批判的感情も含めて内心の自由の領域である。

戦前、日の丸は軍国主義の高揚に使われた。侵略を受けた周辺アジア諸国では日本の帝国主義の象徴として受け止められた。その日の丸を戦後も国旗として掲げることへの批判も続いてきた。

1987年の海邦国体では、ソフトボール会場に掲揚された日の丸を村民が焼き捨てることがあった。会場の読谷村では、天皇制を核とした戦前の軍国主義を想起させるとして「日の丸・君が代」のない国体実現を目指し、村議会でも掲揚反対決議がなされていた。

だが、当時の日本ソフトボール協会会長が日の丸・君が代を実施しないのであれば会場を変更せざるを得ないと村に通告したため、日の丸が掲揚された。焼き捨ては掲揚の強要への抗議だった。

罰則を設けて国旗を保護すれば、多様で複雑な感情を認めず、日の丸の尊重を押しつけるものになる。思想信条の自由を侵害し、表現の自由の萎縮が生じかねない。

政府説明の撤回と拙速な立法

99年の国旗国歌法制定の際には、政府は「国旗の損壊等を新たに刑罰の対象とすることは考えていない」と説明していた。その説明を撤回し、刑罰を制定しなければならない事情の変化があったわけでもない。

本来であれば、憲法や既存法令との整合性を検証する事前の法案審査で瑕疵が指摘され、国会提出にも至らなかったはずだ。国会審議で質疑時間は衆参両院で計約15時間にとどまった。参院内閣委員会の参考人3人のうち2人の憲法学者が違憲の可能性が高いと主張したが、法案採決を押し通した。拙速を通り越して、民主的な立法手続きを否定する暴挙だ。

高市政権は改憲自体を本丸に、今後もスパイ防止法など、国民の権利制限や思想の統制に踏み込む法案の提出を続けるだろう。異論を排除した乱暴な国会運営をこれ以上続けさせてはならない。