那覇市壺屋で300年以上にわたり焼き物づくりを受け継いできた高江洲家。その窯元「育陶園」は、本店をはじめブランド直営店や工房、体験施設など8拠点を展開し、約20人の職人が働く窯元へと成長した。2020年から代表を務めるのは、6代目陶主の高江洲忠さんの長女、高江洲若菜さん。「壺屋の景色をつなぐ」を理念に、伝統を守りながら新しい価値を生み出している。
開かれた精神が育む窯元
育陶園は1963年、「現代の名工」に選ばれた5代目・故高江洲育男さんが創業した。当時としては珍しく県外からも職人を受け入れたという。「祖父は大阪や満州で暮らした経験があり、外の土地で温かく迎えられたことが、垣根のない考え方につながったのだと思います」と若菜さんは語る。県外で修業した父・忠さんも「発展するためには、よそ者と若者が必要」と語り続けてきた。その開かれた精神は、いまも育陶園の土台になっている。
伝統を支えた経営改革
若菜さんが家業に入ったのは短大の保育科を卒業した後。父・忠さんが妹への肝臓移植で約2年間働けなくなり、母・啓子さんを支えるためだった。しかし、そこで目の当たりにしたのは、本店用地取得による多額の借り入れなど、厳しい経営実態。「何も分からない私でも、このままではつぶれてしまうと思いました」と振り返る。
外部の専門家と共に経営を見直し、2004年には陶芸体験事業を開始。現金収入を生む仕組みを整えた。2006年には法人化し、会計管理や社会保険制度を導入するなど、組織づくりも進めた。さらに県内外の経営者や専門家から学び、ブランド戦略にも力を注いだ。
職人が誇れる街と職場へ
伝統的な美しい壺屋焼を追求する「育陶園」のほか、若い世代向けの「guma guwa(グマーグワー)」、暮らしに寄り添う器を提案する「Kamany(カマニー)」など、異なる世界観を持つブランドを展開。外部デザイナーとも協働し、商品の価値を高めた。販売も卸売中心から小売中心へ転換し、家業に入って約10年で売り上げを約2倍に伸ばした。
空き店舗などを活用して直営店を増やす中で、若菜さんの視点も壺屋の町へと広がっていった。「私たちは焼き物だけでなく、壺屋の景色そのものをつくっているのではないか」。その思いが、現在のビジョン「壺屋の景色をつなぐ」につながった。
6年前に代表へ就任。弟の7代目・尚平さんとは経営方針を巡って衝突したこともあったが、「私は誰かのためではなく、自分がこの仕事をしたいから続けてきたと気付きました」と振り返る。若菜さんは経営、尚平さんはものづくりに専念する道を選び、役割も明確になった。コロナ禍には外部の知見も取り入れながら経営基盤をさらに強化した。
「壺屋の景色をつなぐ」ためには、職人やスタッフが安心して働ける環境づくりが欠かせないという。「まずはみんなの給料をもっと上げたい。利益は、そのための手段です」と話す。目指すのは、一人一人が誇りを持って働ける会社だ。
「壺屋は私のアイデンティティー。その景色は育陶園のみんなであり、自分自身でもあります」。技術や技法の継承を超えて、大好きな壺屋の文化そのものを次の世代へつないでいく。