高市早苗首相は5日、衆院本会議の所信表明演説に先立ち、那覇市で女性が殺害され、米海兵隊員が強盗殺人容疑で逮捕された事件について言及した。政府の方針を語る場で首相が個別の事件に見解を述べるのは、極めて異例だ。
首相発言の内容と評価
首相は、所信表明の本文を読み上げる前に「凶悪な事件の発生は極めて遺憾であり、日本政府として米側に強く抗議するとともに、捜査への全面的な協力、米軍関係者の綱紀粛正と事件の再発防止の徹底を強く求めた」などと述べた。事件に向き合い、政府としての見解を示すこと自体は一定の評価ができるかもしれない。
しかし、演説前の首相発言の設定は注目されたが、結局は官房長官、防衛相がすでに発信した内容の域を出なかった。いわば、政府の「統一的な答弁」を所信表明に合わせて披露したとも捉えられる。
所信表明との矛盾
さらに、所信表明の本文では、在日米軍の円滑な駐留のために「地元を含む国民の理解と、協力を得ることが不可欠」「沖縄県を含む基地負担軽減に取り組んでいく」と強調した。事件への見解と所信表明の中身は全く相いれない。
発言内容は、昨年の所信表明とほぼ同一だ。事件を受けて、修正を促す側近はいなかったのだろうか。発生から間もない時期に米軍駐留の「理解と協力」を求めた形で、県民感情に無理解な姿勢が一層あらわになった。
県民の反応と今後の課題
首相は演説の中で「防衛力の抜本強化」についても言及した。安保3文書の年内改訂、インテリジェンス機能の強化を掲げ「平和は、願うだけで実現するものではない」と述べた。国民の生命と財産、領土、領海、領空を守り抜くと強調した。
戦後、沖縄では幾度も米軍犯罪が繰り返されてきた。まさに首相が例示した県民の「平和」と「生命」が脅かされている状況ではないのか。他国の軍人によって国民の命が奪われた事態を直視しなければならない。
古謝玄太知事は5日、四軍調整官のベンジャミン・T・ワトソン中将とアンドリュー・オウ在沖米国総領事を県庁に呼び、知念覚那覇市長と連名で抗議した。しかし、ワトソン中将は被害者へ「哀悼の意」を述べつつも、謝罪の言葉は最後までなかった。米側に事件事故の防止を求めるのは極めて困難と言わざるを得ない。
古謝知事は今週中にも上京し、高市首相や外務、防衛の閣僚らに抗議する方針を示す。政府側は米関係機関を呼び出すなど早い対応を取るが、これまで同様に「再発防止の徹底」を繰り返すだけでは、県民は納得することはできない。
残忍な事件が繰り返される背景にある日米地位協定の改定、在沖米軍基地返還、海兵隊削減など具体的な策が必要だ。日本政府が主体性のある策を示せなければ、首相が所信表明で掲げた「県民の基地駐留への理解」は一層遠のくことになる。