昭和の温かみを感じさせるレトロな看板や赤提灯を掲げ、夕暮れの街並みに深く溶け込んだ朱色の外壁。うるま市平良川の老舗おでん店「いこい」が8月20日、59年の歴史に幕を下ろした。
店を切り盛りしてきた店主は2代目の又吉とよ子さん(77)。常連客で埋まった客席に向かい、「笑ったり泣いたり、色んなことをお客さんと一緒にやってきた。『ありがとう』って感謝の思いしかない」と何度も頭を下げた。
半世紀以上続いた伝統の味
「いこい」は1967年にしゅうとめのフミさんが開店。1975年にとよ子さんが引き継ぎ、50年が過ぎた。継ぎ足してきた伝統のだしの鍋いっぱいに、大根やこんにゃく、ちくわ、たまご、厚揚げなど多様な具材が浮かぶ。
ボリューム満点のテビチは、中部スタイルの酢醤油で「あっさり食べられる」と、県内外の来客から人気を博した。
小学生のころ、市喜仲に住んでいた祖母のおつかいで、バスに乗っておでんを買いに来ていたという知念弘樹さん(33)は「思い出の味を最後に食べたい」と来店。変わらぬ味のテビチをほおばり、「こんなにおいしいのに残念。ずっと続けてほしかった」と惜しんだ。
常連客との絆、感謝の言葉
とよ子さんの長男、盛市郎さん(54)は祖母のフミさんが建てた「おでん御殿」で少年時代を過ごした。閉業と知って集まった大勢の旧友を目にし、「中学生の時は同級生を連れて一緒にそばを食べた。みんな1回はタダで飯を食ってる」と目尻にしわを寄せて懐かしんだ。
コロナ禍は営業に制限がかかり、朝5時から店先で弁当を売って堪え忍んできた母のとよ子さんを、「そのころから調子が狂ったのでは」と思んばかる。思いの詰まった店との別れを惜しみつつ、「ここまでよく頑張ってくれた。今後は気軽にストレスなく過ごしてほしい」とねぎらった。
玄関の赤提灯を提供したのは、泡盛製造の多良川那覇支社の営業部主任、藤川久文さん(44)。10年以上前から地元の酒店を介して酒を卸してきた。優しく営業のこつを教えてくれたとよ子さんに、「おかげで今の自分があるといっても過言ではない」と感謝。目に涙を浮かべ、「ずっと健康に過ごしてください」と伝えた。
体調の不調で閉店を決意
「あと2、3年はやれたらという思いは強いが、体調もあって」と、体の不調から店じまいを決意したとよ子さん。半世紀守り続けた厨房から、常連客による和やかな宴が続く店内を眺め、まっすぐ語った。「一人一人の真心はなんとも変えられない。本当に素晴らしい」。