沖縄には古くから「ゆいまーる」という助け合いの文化があります。困ったときに支え合い、喜びも悲しみも分かち合う。そのような人と人とのつながりは、私たちの暮らしを支える大切な財産です。しかし、がんと診断されたとき、多くの方は周囲に心配をかけまいとして、不安や悩みを一人で抱え込んでしまいます。
外科医が見つめた患者の悩み
私は外科医として多くのがん患者さんと接してきました。治療法が進歩した現在でも、「これからどのように生きていけばよいのだろう」「家族に負担をかけるのではないか」といった、治療だけでは解決できない悩みを抱える患者さんが少なくないことを実感しています。
そのような医療と患者さんの間にある“隙間”を埋めるために生まれたのが「がん哲学外来」です。順天堂大学名誉教授の樋野興夫先生が提唱された取り組みで、病気だけではなく、人生や生きる意味について語り合う対話の場として全国に広がっています。
対話がもたらす希望
がん哲学外来では、答えを与えることよりも、まず相手の言葉に耳を傾けることを大切にします。樋野先生は「病気であっても病人ではない」と語られています。がんになったとしても、その人の価値や人生が失われるわけではありません。対話を通して、自分らしく生きる力や希望を見いだしていくことができるのです。
全国各地には「がん哲学外来メディカルカフェ」があり、患者さんやご家族、医療者、地域の方々が立場を超えて集い、自由に語り合っています。沖縄県内にも、がん患者さんやご家族が集うカフェや交流の場があります。同じ経験を持つ仲間や理解者と出会うことで、「一人ではない」と感じ、新たな一歩を踏み出せることがあります。
心の支えとしての言葉の処方箋
医療の進歩によって、がんと共に生きる時代になりました。だからこそ、体の治療だけでなく心の支えも大切です。がん哲学外来は、病気を抱えながらも自分らしく生きるための「言葉の処方箋」を見つける場所です。悩みや不安を一人で抱え込まず、誰かと語り合うことの大切さを、多くの方に知っていただければ幸いです。
(川俣太 与那原中央病院 消化器外科)